脂肪性肝疾患とは
脂肪性肝疾患のうち、代謝機能の異常に関連して肝臓に脂肪がたまる病気を「MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患:Metabolic dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease)」と呼び、脂肪が肝臓に蓄積し、肝機能の異常を引き起こす病気の総称となります。従来は「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれていましたが、近年、原因として「肥満・糖尿病・脂質異常症・高血圧」といった代謝異常(メタボリック異常)が関わることが明らかになり、2023年に国際的な名称として「MASLD」に変更されました。
日本では成人の約3人に1人が脂肪肝とされており、その多くがMASLDに該当すると考えられています。初期にはほとんど自覚症状がないため、健康診断などで偶然発見されることが多い病気です。しかし、放置すると肝硬変や肝がんへ進行するおそれがあるため、早期発見と生活習慣の見直しが大切です。
MASLDはどのくらい多い?
MASLDの有病率は世界全体で約25%。日本でも欧米と同様に高く、体格に関係なく見られます。
- BMI 23未満の方でも約10%
- BMI 30以上の高度肥満では80%
- 糖尿病患者では45〜60%とされています。
MASLDの種類
MASLDは大きく「単純性脂肪肝」と「代謝異常関連脂肪性肝炎(MASH)」の2つに分けられます。
単純性脂肪肝は、肝臓に脂肪がたまっているものの炎症や細胞の障害がほとんどみられない状態です。一方、MASHは脂肪の蓄積に加え、肝細胞の炎症や線維化が進行している状態を指します。
MASHは放置すると肝硬変や肝がんに至ることもあり、特に注意が必要です。近年の研究では、MASLDの約20%がMASHへ進行する可能性があると報告されています。定期的な血液検査や腹部超音波検査によって状態を評価し、適切な管理を行うことが大切です。
MASLDの症状
MASLDは「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓に起こるため、進行するまでほとんど症状がありません。初期段階では倦怠感や疲れやすさ、食欲低下などがみられることもありますが、多くは気づかないうちに進行していきます。
症状が現れるのは、炎症が強くなり肝臓が硬くなる「線維化」が進んだ段階です。この時期になると、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、腹部の張り、足のむくみなどが出ることがあります。そのため、症状がない段階で肝機能異常を発見し、適切な治療を受けることが重要です。
MASLDを疑うきっかけ
以下のような方では、血液検査などで肝機能の軽度異常(ASTやALTの上昇)が見られた場合、MASLDの可能性を考える必要があります。
- 肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常などの生活習慣病がある
- 健診で肝機能異常を指摘された
- エコーで脂肪肝と言われた
また、進行したMASH(隠れ肝炎) を疑うポイントとして、次のような所見があります:
- 手掌紅斑、くも状血管腫(皮膚の毛細血管が拡張)
- 血小板の減少(20万/μL以下)
- AST/ALTの比率の逆転(通常ALTが高め→進行するとASTが高くなる)
- FIB-4 index(血小板・AST・ALT・年齢から算出。1.3以上は肝線維化を疑います)
MASLDが進行するとどうなる?
MASLDの進行度、特に「肝線維化」の程度が将来の予後に大きく関係します。
実はMASLDの患者さんが亡くなる原因で最も多いのは、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患です。次いで多いのが、大腸がんや乳がんなどの他のがん。もちろん肝硬変や肝がんにもつながります。
そのため、消化器内科や循環器内科とも連携し、早い段階でMASHの可能性を見極めることが重要です。
MASLDの原因
MASLDの主な原因は、生活習慣の乱れにより代謝が崩れることです。
特に、過剰なカロリー摂取や糖質・脂質の多い食事、運動不足、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などが関係しています。これらの要因が重なることで、肝臓に脂肪がたまり、炎症や線維化が進行していきます。
また、アルコールの過剰摂取や薬剤、ウイルス性肝炎などが背景にある場合もあり、原因を正確に見極めることが治療の第一歩となります。近年では、痩せている方でも内臓脂肪が多く、MASLDを発症するケースが存在します。体型だけではなく、血液検査や超音波検査による正確な評価が欠かせません。
MASLDの検査と診断
MASLDが疑われるときには、以下のような検査を行います:
- 腹部エコー:肝臓が「白っぽく」映る高エコー像
- 腹部CT:肝臓の密度が低く見える所見
- 血液検査:ALT(GPT)が30U/Lを超える場合、炎症の可能性が高いとされます
※日本肝臓学会では「ALT>30」を早期診断の目安としています - FIB-4 indexなどで肝線維化の有無を確認します
MASLDの治療
MASLDの治療の基本は「食事と運動による生活習慣の改善」です。体重を5〜10%減らすことで肝臓の脂肪が減少し、炎症や線維化の改善が期待できます。
薬物療法は現時点で確立されたものはありませんが、糖尿病や脂質異常症を合併している場合には、それぞれの病態を改善する薬剤が間接的に肝臓への負担を軽減します。
医療機関では、血液検査、腹部超音波、必要に応じてMRIや肝生検などで病態を評価し、個々の状態に合わせた治療計画を立てます。定期的なフォローアップが、重症化を防ぐ鍵となります。
食事療法
- 適正なカロリーとバランスを心がけた食事
- 体重の5〜7%以上の減量が目標
- 最近注目されている時間制限食(夕食後から朝食まで12〜14時間食べない)も効果的です
※ただし筋力低下を防ぐため運動も重要です
運動療法
- 有酸素運動(ウォーキング、ジョギングなど)
- 筋トレ(レジスタンス運動)
- 高強度インターバルトレーニングも有効とされています
薬物療法
糖尿病を伴う場合、高インスリン血症を起こしにくい治療が重要です。
近年は以下のような薬で肝臓を守る効果も報告されています:
- SGLT2阻害薬(飲み薬)
- GLP-1受容体作動薬(注射薬)
それぞれに合った治療がありますので、ぜひ医師にご相談ください。
MASLDの予防
MASLDの予防には、何よりも生活習慣の改善が重要です。
まず、バランスのとれた食事を意識し、糖分や脂質を控え、野菜や魚を中心とした和食を心がけましょう。特に清涼飲料水やスイーツなど、果糖を多く含む食品は肝臓の脂肪蓄積を助長するため注意が必要です。
適度な運動も有効で、週に3〜5回、1回30分程度のウォーキングや軽い筋力トレーニングが推奨されます。
また、肥満や糖尿病、高血圧などの合併症を早期に治療・管理することで、MASLDの進行を防ぐことができます。
当院での対応
健診で「肝臓の値が高い」と言われた方、エコーで「脂肪肝」を指摘された方、あるいは健康診断の数値に不安がある方は、お気軽にご相談ください。
早期発見・早期対応が、将来の重い病気を防ぎます。
よくある質問
MASLDは完治しますか?
生活習慣を見直すことで、脂肪の蓄積や肝機能異常が改善し、正常に戻るケースも多くあります。ただし、炎症や線維化が進んだMASHでは回復に時間がかかるため、早期の対応が重要です。
お酒をやめれば治りますか?
MASLDはアルコールが主な原因ではないため、「お酒をやめるだけ」では十分ではありません。食事内容や運動習慣など、総合的な生活改善が必要です。
脂肪肝を放置するとどうなりますか?
放置すると、肝炎や肝硬変、さらには肝がんに進行する可能性があります。定期的な検査と医師の指導のもと、継続的な管理が大切です。